- ワンポイントレッスン
べラドンナ総アルカロイドといえば、副交感神経の働きを抑える作用をもつ抗コリン成分です。鼻汁分泌やくしゃみを抑えてくれるので、かぜ薬や鼻炎用内服薬に配合されます。
ナス科のセイヨウハシリドコロという植物の根茎や根にふくまれる生薬成分ですが、ベラドンナとは、美しい淑女っていう意味なのです。
どうして、このような名前でよばれているのだろう?
副交感神経の働きを抑えると、結果として交感神経が優位になります。すると、目に対してどのような効果が現れるだろうか。それは瞳孔散大。つまり瞳が大きく開かれることです。
それを知った、中世の女性たちのあいだでは、ベラドンナの果汁を目に差して、目を美しく見せる化粧が流行しました。そのような効果をもたらせる植物に対して、美しい淑女、ベラドンナという名前がつけられたのです。 物語はさらに進みます。
実はベラドンナは激しい毒性をもつことでも知られています。食物や飲料に果実1粒を入れるだけで確実に死を呼ぶことができることが紀元前の時代から知られていました。 植物に含まれる、塩基性で、少量で激しい作用をもたらす生理活性物質を一般にアルカロイドとよんでいます。
べラドンナにも、いろいろなアルカロイドがふくまれ、まとめてベラドンナ総アルカロイドといっています。その中のひとつにアトロピンがあります。
ギリシャ神話の時代。運命の三女神がいました。長女クロトは運命の糸を紡ぎます。次女ラケシスは糸の長さを決めます。そして三女アトロパスが、糸を断ち切ります。人々の運命はこの三姉妹の手に握られていました。そして運命の糸を断ち切るほど有毒だ、ということからアトロピンという名前がつけられたのです。
「ベラドンナ総アルカロイド」
その名前には秘められた美しい淑女と、運命の女神の物語が隠れているのです。